ブックタイトルダイヤモンドクォータリー(2018年秋号) 顧客創造の実学 DIAMOND Quarterly
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ダイヤモンドクォータリー(2018年秋号) 顧客創造の実学 DIAMOND Quarterly
私が立たていし石一かず真ま さんと初めて会ったのは、立石電機(現オムロン)が25年ぶりに赤字を計上した1975年で、マッキンゼー・アンド・カンパニーの東京支社であった。当時一真さんは75歳、私は32歳と、一真さんいわく「自分の孫ほど」年は離れていたが、私たちはほどなく肝胆相照らす間柄となった。 この年の差コンビは、コンサルティング契約も終了し、一真さんご自身も引退された後も続き、会えばいつも新しいアイデアや計画について意見を交わし、気がつけば日はすっかり暮れているのに夕食もまだだった――なんてこともしばしばだった。こうした知的格闘の副産物として2人の連名による特許は、アメックス時代のルー・ガースナーも動揺を隠せなかった世界初のビジネスモデル特許「フロート式デビット決済法」を含め、30件を超える。 オムロンの沿革をたどってみればわかるように、一真さんの新規事業やイノベーションへの情熱は並々ならぬものであった。何しろ一真さんには、お金であれ、車であれ、通勤客であれ「流れているもの」、すなわち世の中に存在しているすべてがビジネスチャンスに見えてしまうのだ。それは、流れには制御が必要であり、制御はオムロンの十八番だからにほかならない。 一真さんは、マサチューセッツ工科大学の数学者ノーバート・ウィーナーが提唱した、制御と通信・情報処理とを統一させる「サイバネティックス」に大きく影響を受け、オートメーションとコンピュータを組み合わせた「サイバーネーション」という新技術に開発の焦点を当てた。これは、いまで言うIoTに極めて近い。シスコシステムズのジョン・チェンバースは、IoTをIoE(インターネット・オブ・エブリシング)と言い換えたが、一真さんならば、さしずめCoE、すなわちサイバーネーション・オブ・エブリシングと言い表したことだろう。 この永遠の起アントレプレナー業家は、次々に商機を見つけては、いろいろなことをやり始める。いまのオムロンには「多産多死のマネジメント」というインキュベーションの仕組みがあるそうだが、第1次オイルショックのただ中にあって、産むに任せていては、いかに筋がよくても一人前に育て上げるのは難しい。医療などその後のコア事業に成長したものもあるが、残念ながら大半が金食い虫となり、極め付けは電卓事業だった。ついに、1975年、76年と2期連続で赤字を計上する。 立て直しを依頼された私は、まず事業の取捨選択と全社改革を実行する若手チームをつくってほしいと、一真さんにお願いした。こうして立ち上がったのが「経営改革委員会」(通称MミIッCク)で、そのチームリーダーに指名されたのは、何と三男の立石義雄(現オムロン名誉会長)さんだった。MICは1976年6月、最終報告を提出するが、その中身は、不採算部門の整理と経営の意思決定機関の改革という、ワンマン経営にドラスティックな変更を迫るものであった。一真さんは「そうか」の一言だけで、すべてを受け入れた。松下幸之助さんもそうだったが、プロの起業家は“消しゴム”がでかい。成功や失敗に引きずられることなく、新しいことに取り組んでいく。もちろん自己否定もいとわない。新しい事実が出てくれば朝令暮改も平気でやった。 しかしその後も、私との特許もそうだが、ヤオハンの和田一夫さんと一緒に自販機だけのスーパーをつくってみたりと(ほどなく失敗に終わる)、一真さんの起業意欲は衰えることはなく、90歳で亡くなるまで続いた。 いまさらながらイノベーションや起業家精神の必要性が唱えられ、またぞろ海外事例やベストプラクティスの輸入が恥ずかしげもなく行われている。一真さんはそういうものには興味を示さず、自分の頭で考え、自分の言葉で表現した。またいつも勉強していた。会うたびに次から次に質問をぶつけてきた。そう、彼の生き様こそベストプラクティスなのだ。C O V E R S T O R Y謝辞|本イラストレーションの制作に当たっては、オムロンコーポレートコミュニケーション部にご協力いただきました。表紙イラストレーション|ピョートル・レスニアック立石一真「永遠の起業家」が教えてくれること構成・まとめ|岩崎卓也ビジネス・ブレークスルー大学 学長大前研一Kenichi Ohmae1 DIAMOND Quarterly