消費増税では財政再建できない
「国債破綻」回避へのシナリオ
消費増税では財政再建できない
「国債破綻」回避へのシナリオ
書籍情報
- 野口悠紀雄
- 定価:1650円(本体1500円+税10%)
- 発行年月:2012年01月
- 判型/造本:4/6並製
- 頁数:312
- ISBN:978-4-478-01781-4
内容紹介
消費税率5%の引き上げでは、財政収支の改善効果はわずか2年で失われ、社会保障費の増加で財政は際限もなく悪化していく。財政再建のためには消費税率30%が必要、年金の支給開始年齢を75歳にせよ、介護産業を経済改革の起爆剤とせよ…など、独自の収支シミュレーションにより消費増税による財政再建効果を検証し、これからの高齢化社会で真に求められる方策を示す。
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目次
はじめに
第1章 消費税を増税しても財政再建できない
1 消費税率を五%引き上げても、改善効果わずか2年!
消費税率引き上げで財政状況は改善されるのか?/消費税率五%引き上げによる国債発行削減額は、2兆円程度/国債発行額はわずか2年で元に戻る/国債残高の対GDP比は2050年度には400%を超える
2 財政健全化のためには税率30%が必要
常識的な範囲の消費税増税では、財政は健全化できない/ユーロ加盟条件を満たすには、消費税率を30%にする必要/公債依存度の上昇を防ぐには、税収伸び率が二%を超える必要/社会保障関係費伸び率をマイナス2%にできれば、公債依存度は上昇しない
3 消費税の目的税化は、増税のためのトリック
消費税の増収分は、何にでも使える/なぜ「赤字削減のために増税」と言わないのか?/初歩的な論理が破綻している
4 財政への信頼崩壊は財政危機を加速する
財務省と与党間の信頼が崩壊している/年金制度への信頼も崩壊している
5 税率引き上げ前にインボイスがどうしても必要
インボイスの必要性が忘れられている/税を転嫁できない零細納入者の悲哀/大企業である購入者に益税が発生する/免税業者に益税が発生する場合も/軽減税率適用ができない
補論 収支シミュレーションの前提と計算方法
第2章 国債消化はいつ行き詰まるか
1 国債消化構造の危うさ
日本の財政は破綻するか?/個人金融資産は国債の担保にはならない/貸出を減らして国債を消化してきた/債務残高などの定義
2 日本国債のDoomsdayはいつ来るか?
消費税を増税しても、2028年度で国債消化が行き詰まる/金融機関の資産が悪化。日銀が出動すればインフレに/対外資産を取り崩せば、数年延ばせる/将来の危機の「予測」が問題を引き起こす/国債市場価格下落による混乱は日本では起こりにくい
3 国債消化のマクロ的メカニズム
経済全体を見る必要/フローとストックでのバランス式/経済全体のバランスを考えないために生じる誤り
4 財政支出が財政収入に還流すれば問題はない
国債費の多くは、国債の購入に充てられて、国に戻る/内国債の場合、国債費は国内で支払われる/永久国債は財政赤字問題を解決するか?/年金課税を強化して年金支出を還流させる/資産課税の重要性
5 金利が上昇しても、利払い費はすぐには増加しない
国債の償還と利払いに関する制度/市場利子率低下が利払いに与えた影響/市場利子率が上昇しても、利払いはただちには増加しない
6 国債は負担を将来に転嫁しない
「国債は負担を将来に転嫁する」という誤解/サミュエルソンの『経済学』に代弁してもらう/復興財源調達は戦費調達と同じ
補論 金利上昇が国債利払いに与える影響
第3章 対外資産を売却して復興財源をまかなうべきだった
1 結局は恒久増税になった復興財源
復興の負担は、将来世代も負担すべき/復興財源と社会保障財源の違い/最初は「負担を後世代に負わせてはならない」とされた/負担先送りを停止すべきは社会保障/復興増税で財政再建が困難になる/結局は増税だけが目的だった
2 対外資産の取り崩しで復興資金を調達できる
対外純資産を一割減らすだけで復興資金がまかなえる/最も合理的な復興資金調達法/円高拒否が対外資産活用の障害/アメリカが資金流出を望んでいない/実物資産が滅失したら、金融資産を取り崩すのが当たり前/社会保障に埋蔵金を使い、復興に増税する愚/「家がつぶれたので預金を増やす」という愚
3 外貨準備の取り崩しで復興資金を調達できる
変動為替制では、外貨準備は必要ない/外貨準備を取り崩せば、国債消化できる/外貨準備利用否定論は合理的か?/復興支出は他の支出と区分経理できる
4 必要なのは財政論でなく経済論
政府にとっての財源調達と日本全体の財源調達は同じでない/対外資産の活用は日本全体の資源量を増やす/「負担を先送りする」ために対外資産を活用する必要/復興支出は実物資産として残る
第4章 歳出の見直しをどう進めるか
1 増税分を呑み込む歳出増
歳出伸び率は、税収伸び率より高い/消費税の目的税化は、際限のない負担増をもたらす恐れがある/事業仕分けでは無駄の排除はできない/ほとんど進捗しない公務員の人件費削減
2 マニフェスト関連経費はまだ残っている
真っ先に見直すべき経費/マニフェスト関連経費
3 財政支出の大部分が移転支出であることの意味
財・サービスの購入になる財政支出は増えていない/移転支出が増えたので財政支出が増えた/移転支出について最終的に決定するのは民間主体/移転支出のどこが問題なのか
第5章 社会保障の見直しこそ最重要
1 人口高齢化で社会保障給付は自動的に増える
社会保障給付費は、六五歳以上人口数と密接に関連/社会保障給付費はどのようにまかなわれているか/今後一〇年間程度が正念場
2 公的施策はどこまでカバーすべきか
社会保障をめぐる議論の混迷/消費税率を引き上げても、問題の一部しか解決されない/社会保障制度がカバーすべき範囲/社会保障を公的施策とすべき理由は、はっきりしない/年金の支給開始年齢引き上げが必要
3 内需を増加させたいなら、なぜ医療費を抑制する?
団塊世代による医療・介護支出が増加してもおかしくない/日本の医療費支出は少ない/日本の公的医療費の比率は、かなり高い/なぜ支出抑制が望ましいと考えられるのか/公的医療保険の役割を縮小させる/医療価格は上昇しているが、公的医療価格は抑えられている/高齢化が進んだのに、経済構造と制度が対応していない
第6章 経済停滞の原因は人口減少ではない
1 人口構造で未来が予測できる か?
スペンディング・ウエイブの理論/日本の没落をスペンディング・ウエイブで予言/正統派経済学は無視するが……/日本の問題は、人口変動に関連するものが多い
2 40〜59歳人口の減少は、日本経済に大きな影響
人口減少より高齢化が問題/自動車や電機製品では負のスペンディング・ウエイブ/団塊ジュニアによる住宅投資のスペンディング・ウエイブは存在したか?/人口要因は重要だが、すべてではない
第7章 高齢化がマクロ経済に与えた影響
1 高齢化で貯蓄率は低下したか?
「高齢化で貯蓄率が低下」という経済財政報告の議論/国民経済計算における家計貯蓄率は低下した
2 貯蓄減少のメカニズム
可処分所得の減少が貯蓄を減少させた/金融緩和で金利収入が減ったため可処分所得が減少/家計調査の「黒字率」は、さほど低下していない/黒字率の変化には、貯蓄行動の変化も影響/高齢化は家計貯蓄率をどの程度下げるか
3 人口構造の変化は、資産保有に影響を与えたか?
高齢化でリスク選好が高まったか?/高齢者の貯蓄残高は多いので、資産市場に影響/リスク資産には市場動向の影響が大きい
4 貯蓄が減少したのに、貯蓄投資差額は拡大
家計貯蓄は減少したのに、経済全体の貯蓄投資差額は拡大/家計の貯蓄投資差額の減少は、貯蓄減少ほどでない/貯蓄投資差額拡大は、経済衰退の結果
5 財政赤字拡大の原因は、公共事業ではない
「一般政府の純借入」で財政赤字を見る/政府赤字が拡大した原因は、政府貯蓄の減少/社会給付の増加で可処分所得が減少し、貯蓄が減少/財政赤字拡大の原因は、公共事業でなく人口高齢化
6 金融緩和は、経済活性化でなく企業の資金過剰をもたらした
非金融法人企業が資金超過に/金融緩和で支払利子が減少/国債の消化が進んだのは、企業が資金過剰になったため
7 国内の貯蓄超過は経常収支の黒字に対応する
国内貯蓄投資バランスと対外収支の関係/事後的な恒等式と因果関係は別/国内の資産蓄積は進んでいない/対外資産の蓄積は顕著に進んでいる
8 高齢化社会では、インフレに備えた資産運用が必要
資産運用が重要な課題に/デフレ下では定期預金が有利/インフレインデックス債の発行が望まれる
第8章 介護は日本を支える産業になり得るか?
1 曲がり角に立つ介護産業と日本の雇用
介護という「新産業」の登場/今後の要介護人口の伸びは、鈍化する/90年代以降の日本で所得が低下したのは、なぜか?/要介護人口の伸びが鈍化すれば、所得がさらに低下する
2 急増する老人ホームに供給過剰が生じないか?
施設とサービスのアンバランス/広い観点から介護を考える必要がある/高齢者向けの施設には何があるか/介護保険導入後に急増した有料老人ホーム
3 製造業の雇用は減少するが、労働力人口はもっと減少
労働力人口減少がこれから始まる/介護人材は2025年までに100万人程度増加/製造業の雇用は2025年までに300万人減少/生産年齢人口が2025年までに1000万人減少
4 将来の政策課題は、量の確保でなく質の向上
将来の労働供給についてのいくつかの推計/労働力供給は今後大きく減少する/女性の労働力率はどこまで上がるか/労働需要との突き合わせ
5 新しい介護産業の確立に向けて
介護保険財政は厳しくなる/介護保険の枠内では、必要人材が確保できない/実際には世代間移転になっている介護保険/資産保有と介護費用負担を関連させるべきだ/介護に関して公的主体がなすべきこと/製造業を介護産業に転換させる/介護人材のグローバル化を図る
索引
著者
野口悠紀雄(のぐち・ゆきお)
1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、2011年4月より早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問、一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。
〈主要著書〉
『情報の経済理論』(東洋経済新報社、1974年、日経経済図書文化賞)、『財政危機の構造』(東洋経済新報社、1980年、サントリー学芸賞)、『バブルの経済学』(日本経済新聞社、1992年、吉野作造賞)、『「超」整理法』(中公新書、1993年)、『日本を破滅から救うための経済学』(ダイヤモンド社、2010年)、『1940年体制(増補版)』(東洋経済新報社、2010年)、『実力大競争時代の「超」勉強法』(幻冬舎、2011年)、『大震災後の日本経済』(ダイヤモンド社、2011年)、『大震災からの出発』(東洋経済新報社、2011年)、『クラウド「超」仕事法』(講談社、2011年)等多数。
◆ホームページ:http://www.noguchi.co.jp/